3.「Society 5.0時代・ポストコロナ時代の健康いきいき職場づくり」に向けて ~従業員の健康づくりの経営への新しい形の統合に向けて~

3)取り組みの「主体」の拡大:関係者全てが主体的に参画できる活動を

最後に、取り組みの「主体」の拡大についてです。ウェルビーイング実現を目標とした個人、職場、企業、社会といった各レベルでの働きかけは、「誰か」~政府や金融機関、取引先、地域の大企業、企業トップ、健康管理部門、職場の上司等~から降ってきたから対応する、という受け身の姿勢では、真の意味でのウェルビーイングは実現されえません。そのため、特に企業・組織内において、全員が当事者として関わることが重要となります。先に、既存の健康管理の取り組みが往々にして主管部門(主には健康管理部門)のみの取り組みになってしまい、現場のマネジメントや従業員個々人が当事者として関わることが困難になることに触れました。これまで「健康いきいき職場づくり」では、人事、経営企画、産業保健、労働組合、健康保険組合等が連携しながら取り組みを推進する、「インターセクター・アプローチ」(組織や部門をまたいだアプローチ)が推奨されてきました。今後は、この考え方をさらに拡大し、従業員を含めた関係者全員が当事者として関与し、それぞれのレベルでウェルビーイングの実現に向けて活動することが求められます。関係者全員が当事者感を持って参加することで、やらされ感の軽減や、取り組みを通じた職場の求心力の回復等の効果が期待されます。


図表15:インターセクター・アプローチ概念図

出典・東京大学大学院川上憲人教授スライドより


また先にも述べたように、企業や職場を取り巻く環境は、かつての固定的な「境界」の緩みにより、多様化、複雑化がこれまで以上に進行しています。こういった中で、従業員個々人の置かれた環境を考慮しつつ、主体性を喚起するとともに、個々人の志向を職場、組織単位に束ね、創発を通じたイノベーションにまで昇華させるためには、組織開発的なアプローチに基づく職場での対話がますます重要となります
[1]。これに合わせて、主体的な自己選択をすることをいかに企業として後押しし、自分で選択できるという状態を確保するかも求められます。

ただし、いきなり自己選択やそれに基づく行動を求められても、それは決して容易なことではありません。人間はどうしても失敗することへの恐れや、周囲の目への意識等から自由になることは容易ではないためです。そのため、職場においてメンバーが自分の考えや気持ちを気兼ねなく発言でき、拒絶されることなく受容される、心理的安全性
[2]の担保が重要となります。

このような心理的安全性の高い職場環境を構築する上で、特にキーパーソンとなるのが現場のミドル・マネージャーです。この際、従来型のヒエラルキーに基づくマネージャー像~上司は正しい、上司は部下より多くのことを知っている等~では、メンバーの心理的安全性や主体性は高まりません。そのため、メンバーに安心感とチャレンジ意欲をもたらすようなセキュアベース・リーダーシップ
[3]や、メンバーに仕事の意義を伝えつつ、自律性を重視するエンパワリング・リーダーシップ[4]等の新たなマネジメントスタイルが今後より求められることになります。無論、リーダーやメンバー個々人も、自分の中のこだわりや固定観念に向き合いつつ、変化に柔軟に対応し、行動するための心理的柔軟性を高めることが要請されます。



図表16:職場における心理的安全性・心理的柔軟性イメージ


同様に、現場により近い立ち位置で、個々人の人生における成長や自己実現を支援しつつ、強い組織や職場を作るための対話を行い、ボトムアップとトップダウンの仲介をなす労働組合の活動は、心理的安全性を高める上でも重要と言えます。従業員のウェルビーイングを高める活動において、労使が意見交換し、目標を共有し、協働して取り組むことが望まれます。

ただし、職場における多様性~性別、年齢、雇用形態といった表層的なものから、パーソナリティ、考え方、仕事観等、深層的なものまで~が今後ますます高まることが予想される中、主体的参画が強制的に行われるように介入するのは望ましいことではありません。そのため、個々人の目指したい方向性を尊重し、多様な「弱い紐帯」(weak tie)
[5]を束ねる形での参画に向けた職場での対話がこれまで以上に重要になると言えます。



[1] 例えば前掲『健康いきいき職場づくり』第3章・第5章参照。

[2] 同概念についてはエイミー・C・エドモンドソン著『チームが機能するとはどういうことか─「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』(2015 英治出版)等参照。

[3] 同概念についてはジョージ・コーリーザーら著『セキュアベース・リーダーシップ ――〈思いやり〉と〈挑戦〉で限界を超えさせる』(2018 プレジデント社)参照。

[4] 青木幹喜著「エンパワリング・リーダーシップ―その効果の検討―」(2014 社会イノベーション研究2014年7月29日掲載承認第9巻第2号)参照。

[5] 米国の社会学者であるマーク・S.グラノヴェターが提唱した概念。家族や親友のような、強いつながりがあるが同質的な人々よりも、友達の友達やちょっとした知り合いなど社会的なつながりが弱い人々の方が、新しく価値の高い情報をもたらしてくれる可能性が高いという説で、弱い紐帯を利用して多様性を高め、イノベーションを起こす試みにも援用される。

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