ニュース

2024年03月28日

2024年2月6日 開催 健康いきいき職場づくりフォーラム 成果発表シンポジウム「“ウェルビーイング”を重視した経営のゆくえ」サマリーをアップしました!

2024年2月6日(火)、成果発表シンポジウム「“ウェルビーイング”を重視した経営のゆくえ」を開催しました。本シンポジウムは会場とオンラインで実施され、多くの方々にご参加いただきました。

健康いきいき職場づくりフォーラムでは、設立10年を迎えた2022年より、従業員のウェルビーイングの実現に向けた個人・職場・企業での取り組みを幅広く支援することを活動の基盤に据え、ウェルビーイングおよびウェルビーイングを重視した経営の在り方や、事例に関する研究を進めてきました。本シンポジウムでは、従業員の幸福を重視する経営の在り方「ウェルビーイングを重視した経営」をテーマとして、労働者のウェルビーイング向上のために企業ができることや、施策の参加率を上げるポイント、生産性向上につながる施策のヒントなど、これまでの研究成果と実践事例について発表いただきました。

問題提起

島津 明人 氏(慶應義塾大学 総合政策学部 教授)
―健康いきいき職場づくりの新たな歩み

冒頭、島津先生より「健康いきいき職場づくりフォーラム」のこれまでの活動と設立当時の目標についてご紹介いただきました。 

Society5.0の考え方で第4次産業革命と呼ばれる現在、コロナ禍によって働き方には大きな変化があったとお話しいただきました。日本生産性本部が行った働く人の意識調査によると、テレワークの実施率は微減した一方で、今後もテレワークを行いたいという意向の人が85%以上で前回の調査より増加しているという結果が出ているとのことです。 
このような今の時代を「緩境界時代」と形容して、自宅でも仕事ができる在宅勤務や、ギグワークのような新しい働き方の普及、また、働き方以外でも境界が緩くなってきているという点について解説いただきました。 

また、これまでの働き方を振り返り、これからの働き方を考える「これから検討会」では、1年かけて議論を行い、2022年2月の報告書では「ウェルビーイング」を大きなキーワードとして捉えているとして、「これから」のフォーラムの新しいミッション・ビジョンについてお話いただきました。→健康いきいき職場づくり“これから”検討会 報告書 (ikiiki-wp.jp)

最後に、ウェルビーイングについてのこれからの検討課題として、「考え方」、「測定/評価方法」、「向上/最適化するための方法」の3点を挙げていただきました。

話題提供

西村 孝史 氏(東京都立大学大学院 経営学研究科 准教授)
―健康いきいき職場づくり×ウェルビーイングを経営に盛り込む
HRM視点から見るウェルビーイングを重視した経営の行方
-ウェルビーイング経営実現のための方法論・枠組み検討分科会報告
-

個の力を組織の力に昇華していくために個と組織のウェルビーイングを分けて考えることの必要性、高い効果を上げる人事施策の2面性、ウェルビーイングのために誰も取り残さない「3すくみ」の構造を考える必要性について解説いただきました。 

人事施策を通じて、従業員の能力・意欲を上げ、成果を上げるためには経営戦略・事業戦略にリンクしたHRM(Human Resource Management)が重要であり、企業はそれを公表して指標化していく必要があるとご提言いただきました。 また、現場の管理職が個の力を組織の力にするために気を付けるべき点として、人事施策実施の意図を理解すること、そのうえで部下に働きかけること、その組織をどのように束ねるか考えることの3点を挙げていただきました。 

次にHPWS(High Performance Work System=高い業績を上げる作業システム)について、A.M.O(Ability Motivation Opportunity)を高めることが成果につながると言われる一方で、従業員のウェルビーイングを犠牲にして成果をあげる施策もあるという2面性について解説いただきました。 
この2面性を考えたとき、役職、雇用形態などに関わらず、だれも取り残さないためには、個別性、公平感、規模の経済性のバランスの取れた3すくみの構造を考える必要があり、そのために、人事部だけでなく、職場のソーシャルキャピタルの力も借りて一人一人を見る、自ら動く・声を反映する仕組みを作る、人事と現場が共通言語で話し求心力を高める、という3つの観点を挙げていただきました。 

最後に、同じ施策でも企業によって結果が異なる理由として、肝となるのは運用や認知であり、その影響についても考える必要があるとお話しいただきました。 

池田 浩 氏(九州大学大学院 人間環境学研究院 准教授)
―組織と職場のウェルビーイングをどのように測定し評価すべきか

​昨今、大きな期待関心が高まっている「ウェルビーイング」の指標検討について、学術的研究、社会的議論から見えて来た2つの課題についてご報告いただきました。 

1.「働く個人」の問題に終始してしまっているという点 
実際には、多くの場合に個人は職場やチームという「集団」に埋め込まれており、複数の個人が集団レベルの感情、規範、風土を醸成しています。そのため、ウェルビーイングの概念を検討するにあたり、その拠り所となる枠組みやモデルについて、PERMAモデルを参考に「職場におけるウェルビーイング」(の状態)を検討する必要性について言及されました。 

2.どういった施策が効果的なのかという点 
会社・組織全体のウェルビーイングを検討するに際しては、ウェルビーイングの実現を後押しする施策の有無に注目しました。そのうえで、個人・職場・組織の3つを階層的なウェルビーイングのダイナミックモデルとして整理したところ、それぞれのウェルビーイングは独立しているのではなく上から下、下から上への波及が期待できるということについて解説いただきました。 

また、2023年12月に個人・職場・組織の各レベルで実施したウェルビーイングに関するアンケート調査では、組織レベルのウェルビーイングのため「ポジティブな社会的物理的環境」(仕事の安全健康に関する制度、公正な報酬賞与に関する手続き)を導入している企業が多い一方で、「エンゲージングな仕事の提供」の導入率は低い傾向にあることが判明しました。ウェルビーイングの階層的ダイナミックモデルの提唱によって、組織のウェルビーイングは職場のウェルビーイングを介して個人のウェルビーイングを高めていくという関係が予測できるとのことでした。 

そのうえで、最後に、今後の調査についての展望についてお話いただきました。

黒田 祥子 氏(早稲田大学 教育・総合科学学術院 教授)
―経済学から見たウェルビーイングを重視した経営の意義

労働者のウェルビーイングを考える中で、雇用の維持(雇用の安定)から「安定」に着目してお話しいただきました。「安定」という言葉は必ずしもポジティブなものではなく、そのうえで雇用の「安定」がウェルビーイングを高めることになるのか、日本の労働市場を振り返りながら解説いただきました。 

高度成長期、人手不足の時代の名残から新卒一括採用が定着し「日本的雇用慣行」が確立、その特徴は「終身雇用」(雇用の安定)でしたが、不確実性が高くなり経済も成熟した環境下では「日本的雇用慣行」の維持が難しくなってきているといいます。また、雇用を守る(安定)のためにほかのことを犠牲にしたことが現代の過労社会に繋がっているとして、企業と労働者の関係を囚人のジレンマに当てはめ、そのメカニズムについて解説いただきました。 

今後は、コロナ禍による働き方の多様化、副業兼業・ギグワークなどの選択肢の増加、転職希望者の増加によって、労働者が転職を考え企業を選ぶ時代になり、労働者のことを考えない企業は淘汰されていくことになると言います。逆に、労働者のウェルビーイングが上がれば人が定着し、雇用が安定、つまり、ウェルビーイング経営は労働者だけでなく結果として企業のためにもなることを解説いただきました。 

そのうえで、ウェルビーイング経営に必要な3つの視点を挙げていただきました。 

・ただコンプライアンスを遵守するだけではなく、「社員」のことを考えた経営が重要 
(労働者全員のウェルビーイングを考える) 
・「何かしなくてはならない」から「何をしなくてはならないのか」へ 
(会社によって課題は様々なので、他社事例をコピーするだけではなく、自分の会社には何が必要かを考える) 
・労働者の(短期的な)満足度を高めるだけが、ウェルビーイング経営ではない 
(ワークライフバランスの向上以外にも、個人の成長、やりがい、将来への希望などが持てる職場にしていくことが、中長期的に見て個人のウェルビーイングに繋がっていくのではないか) 

最後に、個人のウェルビーイング向上が企業収益の改善、やがて、経済成長につながるような経済の好循環、そういった社会を我々は目指していくべきなのではないかとご提言いただきました。

奈良 恵子 氏(日本生活協同組合連合会 執行役員)
―ウェルビーイングな働き方 ~一人ひとりを元気にする取り組み~

​初めに、日本生協連の2030年ビジョンの中では、「組合員と生協で働く誰もが活き活きと輝く生協」として組織のウェルビーイングについて規定しており、何のために働いているのかを共有し、価値観を明示することで皆が同じ方向を向いて働くことができる組織づくりを目指しているとのことです。その基盤として、老若男女問わず、公正で差別なく、チームとして働ける職場を作っていくことが重要であるとご提言いただきました。そのために現在、他社事例なども取り入れて行っているコミュニケーション改善の取り組みについてご紹介いただきました。 

社会の変化、共働き世代の増加や、男性の育休や家事参加によって働き方にも変化が起こり、飲み会や喫煙所でのコミュニケーションは減少、その結果、就業時間中のコミュニケーションがより重要になってきていると言います。
 その中で、様々な企業で取り入れられている1on1では従業員側に自分のための時間であることを理解してもらい、抱えている課題や悩みなど話すことを考えてから臨むことを推奨しているということでした。
また、ACT(Acceptance and Commitment Therapy,心理的柔軟性を高める取り組み)では自分の大切にしたいもの、好きなものを振り返り、それを軸に話をしてもらうようにした結果、7割以上の人が自分のキャリアについて話すようになったそうです。管理職側にも1on1の研修やピアサポートの場を用意するなど、精神的負担を減らす取り組みを行っているとのことでした。 

決められたラインの業務だけではやりたいことに噛み合うものがない場合でも、希望者を募って実施するなど、一人一人がいきいきと働ける職場へ向けて、DE&I(Diversity Equity & Inclusion)、価値の明示、個性を活かすこと、の3つのポイント、併せて個人のリテラシーの向上も大切であるとご提言いただきました。

三宅 邦明 氏(株式会社ディー・エヌ・エー Chief Medical Officer)
―社員のパフォーマンスアップを叶える、DeNAの健康経営施策

DeNAでは2016年から、社員が安心して心身共に最高のパフォーマンスを発揮できる組織を目指しCHO(Chief Health Officer)室を設立し、社員の健康課題の改善に向けて進めてきた健康経営施策を、医療連携(メディカル)、メンタルヘルス・コミュニケーション・睡眠、運動・食生活改善の3点から解説していただきました。 

・医療連携(メディカル) 
アレルギー性鼻炎や生理による不調や片頭痛など、薬でパフォーマンス低下を抑えられる症状を抱える人の傾向として、最初の一歩が踏み出せない人が多いそうです。そこで、最初のハードル(病院に行く手間、面倒くさい)を下げるために実施した施策として頭痛に関するセミナーの開催や頭痛外来の診療費のサポートをご紹介いただきました。 

・メンタルヘルス・コミュニケーション・睡眠 
一人で集中できる環境によって、個人の生産性は向上しましたが、チーム・組織としての生産性は低下しており、フルリモートによる帰属意識の低下、雑談の減少、会社内での関係構築ができず創発的アイデアが出にくくなっていることを原因として挙げています。リモートを無くすことは簡単ですが、そうではなく会社に来てもらうために行った取り組みについて解説していただきました。また、メンタル面では専属臨床心理士をオーナーにしたオンライン雑談スペースを月1回実施、睡眠改善についても睡眠の質を上げるためのセミナーなどさまざまな取り組みを行っているとのことです。 

・運動・食生活改善 
リモート化になり特に力を入れたのが運動改善で、コロナ禍以降、食生活の悪化と運動不足が一人暮らしをしている社員の課題として顕著に出たそうです。そこで、運動改善に向けた施策としてオンライン運動会と、アプリを活用したオンラインウォーキングイベントをご紹介いただきました。社内でチームを組んで競争をさせることやランキングを付けることによって、如実に参加者数や歩数が上がることが数値として表れたとお話しいただきました。 

他にも健康とコミュニティを作らせることをキーワードに仲間(同僚)との運動をサポートする施策やワーケーション、肩こり腰痛体操やオンラインヨガ、オンラインでゲスト講師を招きお昼休みの約1時間で調理から片付けまで済む料理教室の実施など、様々な施策をご紹介いただきました。 

最後にこれからの健康経営について、リモートワークを交えたハイブリッドな働き方を続けていくための取り組みをお話しいただきました。 

パネルディスカッション

「ウェルビーイングを重視した経営の現在地と今後を考える」(登壇者一同)

 後半では、いただいたご質問をもとに「ウェルビーイングを重視した経営の現在地と今後を考える」と題して、組織と個人のウェルビーイングの最適化のポイントや、施策を打つ際のコストへの意識について等、さまざまな側面からパネルディスカッションを行い、盛況のうちに閉会しました。

近日開催予定のイベント

定例セミナー「健康いきいき職場づくり最新理論~『職場のポジティブメンタルヘルス4』出版記念~」
東京丸の内/オンライン・2024年4月22日開催
イベント・セミナー (ikiiki-wp.jp)

※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

会員ログイン

ユーザー
パスワード
ログイン

会員制度とご入会

ご入会に関するご質問

個人情報保護方針

メールマガジン登録