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2017年03月08日

2月定例セミナー「経営戦略的視点から見た健康いきいき職場づくり」サマリー

去る2月22日、健康いきいき職場づくりフォーラム定例セミナー「経営戦略的視点から見た健康いきいき職場づくり」を開催致しました。

今回は、東京理科大学 大学院 イノベーション研究科 教授の佐々木圭吾先生をお招きし、社員がいきいき働くことを目指す会社の戦略とはどういうものかについて教えていただきました。また、実際に経営戦略として健康経営(健康いきいき職場づくりを含む)を推進する株式会社フジクラ(東京・木場)健康経営推進室副室長の浅野健一郎氏にご登壇いただき、同社の考える健康経営の狙いと具体策について伺いました。

今回の定例セミナーより、会の後半に参加者もグループになって話し合いをいただいた上で質疑応答を行う流れと致しました。その結果、同じ目的でご参加になった方々の交流という場が生まれ、より活気のある参加型のセミナーとなりました。

東京理科大学 佐々木圭吾先生「テイラーの科学的管理法への批判は多いが、生産性向上とメンタルヘルスを考える時、この一見coolに見える手法から学ぶことは多い」

佐々木先生からは冒頭、これまでの経営学は「いきいき働かせること」を考えてきたが、これからは社員が「いきいき働くための」経営学を考えて行きたい、と最近のご著書、その名も「いきいき働くための経営学」執筆の理由からお話をいただきました。いきいき働かせる、という視点からでは、会社の中に個人が包含されている図が浮かびます。会社は個の集団で、それをどう機能させていくか、という視点になります。一方、いきいき働くという個人の視点に立つと、地域や家族や自身の趣味活動などあらゆる顔を持つ自分の一部に、仕事(会社)が存在する、という全く違う図が生まれます。その意味で、多様な個人としてどういきいき働くか、とても興味深い問いかけです。

佐々木先生からは、これまで経営学が取り組んできた成果として、企業と経営についての知識、なぜ経営学が必要とされて来たかという時代背景についてなどをお話しいただいた後、「生産性を高める二つのアプローチ」というテーマについてお話しいただきました。その手法は、構造的(cool)アプローチと心理的(warm)アプローチに分けられますが、昨今の議論では、心理的アプローチに偏りすぎているのではないか、との指摘がされました。構造的アプローチは、いわゆるテイラーの科学的管理法に代表されるように、仕事の環境や仕事そのものをいかに効率よく効果的に組み立てるかを考える視点です。心理的アプローチはホーソン工場実験などの人間関係論に代表されるように、個が集団になった時になせる業(グループダイナミクス)の効果やコーチングなどで個人の力を引き出すことなどに注目する考え方です。

生産性向上をテーマにした時、特に人事部門や健康管理スタッフとしては、いかにメンタルダウンするような状況を回避し、社員一人ひとりがやる気をもって周囲と人間関係を良好にしながら前向きに仕事をするか、というwarmな視点が強調されがちですが、一方では、仕事そのもののやり方を変え、無駄な作業を排除すること、やればやった分だけ報われるような仕事の設計にすること、効率的に仕事ができる職場環境にすることなど、人の感情などに左右されない仕組み作りをするcoolな視点も重要です。健康いきいき職場づくりを推進する時、この二つの視点をバランスよく考えることが大切だと教えていただきました。

事例として、先日フォーラムでもお邪魔したSCSK様の改革についての効果研究を挙げていただきました。それによると、同社のメンタルヘルス不調者数は、月間の平均残業時間とほぼ比例して減少しています。これは、残業時間削減のために行われた、業務効率化の仕組みに起因しているそうです。業務効率化するためには、ノウハウを(個人が持つのではなく)共有化し、若手であってもすぐに学べるように整理されました。業務効率化によって残業時間が減り、余暇が生まれた社員には、自己啓発の時間ができ、知識が向上し、そのため仕事ができるようになり、生産性が向上した、という好循環も確認できました。

これからの経営環境に目を向けると、企業の競争優位性は規模からイノベーションへと変わってきています。規模の大きい企業が勝つのではなく、イノベーションを起こせる企業が勝つ時代です。「イノベーション業務とは、日常業務に比して高い不確実性に直面する知識創造活動」です。これまで経験のない新しい活動を起こすので、リスクを取る判断や勇気が必要ですし、それができるメンタルタフネスが必要になります。また、各自が持つ専門知識を組み合わせて創り出す作業なので、協働する力、そして主体性(イキイキやること)が必要になります。どれも、健康いきいき職場づくりが求めていることと一致します。

こうした環境・状況をまず意識して、健康いきいき職場づくりに取り組むと、さらに現場感のある施策展開を考えられるのではないでしょうか。


株式会社フジクラ 浅野健一郎氏「フジクラの目指す健康経営は、疾病、障害、年齢にかかわらず皆が誇りとやりがいを持って安心して、「活き活き」と働ける職場を実現することです。」

続いて、株式会社フジクラの浅野氏より、「『健康経営』時代 経営資源としての社員の健康」と題して、同社の取組事例についての紹介をいただきました。冒頭、浅野氏からは、「健康経営という言葉が流行り出しているが、いったい何のためにやっているのか?」という問題提起がありました。よく言われるように、厚生労働省の「コラボヘルス」のためにやっている、あるいは医療費削減のためにやっている、長時間残業対策のためにやっている、という答えが思い浮かんだならば、それは本当の目的ではないはずです。健康経営を戦略として取り組むならば、一言で言えば、経営課題の解決のために行うべきです。経営課題とは、例えば人材のリテンション(確保・維持)のためや、そもそも健康に働ける会社であることから良い人材を採用することに使う、あるいはイノベーションを起こす人材の育成のためなど、企業によって様々な答えがあるはずです。単に「健康」を目的とするのではなく、そういう人材を増やす施策を展開することから得られるメリットを目的とすることが大切なのです。

浅野氏からは、社員の健康が経営課題となるような時代背景(少子高齢化、グローバル化、日本社会の様式の変化)をご説明いただいた後、そこで起きる様々な問題解決のために健康経営がある、という位置づけをわかりやすくお話しいただきました。

 同社では、経営が目指すゴールイメージにある「社員が活き活きと働いている」状態を実現する(この活き活きした状態を「ワーク・エンゲイジメント」と捉えている)ために、「職場(家庭)の環境」、「個人の意識と知識」、そして「体の健康・心の健康」のそれぞれに対応する施策を考えています。

同社の活動のユニークなところは、徹底的にデータ分析をし、効果測定をしたり、施策を検討・展開したりするために活用していることです。もともと理系の会社であり、データで説明した方が社員の方々の理解が得られることと同時に、連結で5万人を超える規模の集団(従業員)を見て動かすためには、データ分析が有効であるからです。他にも、働くことと運動することを組み合わせた施策として、社内のコミュニティスペースに雲梯(うんてい)を設置したり、オフィスにスタンディングデスクを設置したり、目に見える形で社員に健康施策を訴求しています。同社の佐倉事業所の広さと自然を活用して、敷地を一周するトレランコース、遊歩道、アスレチックなどを設置したりもしています。車通勤の多い事業所では、自転車通勤を推奨したところ、これによる身体の運動機能が向上したばかりでなく、活性度(やる気)もアップしたことがわかりました。

健康いきいき職場づくりの活動としても、一部の事業所で健康いきいき職場づくりワークショップを展開しています。最初はやる気のなかった社員の方々も、話し合いを進めて行くうちにやる気が出てきて、自ら他者と関わりながら良い職場づくりを目指す方向に変わって行ったそうです。

こうした健康経営の活動が奏功してか、2012年の全社展開完了以降、2015年までに、会社の売り上げは1.4倍、営業利益はなんと5.1倍に向上しているそうです。もちろん、健康経営なり健康いきいき職場づくりは、会社業績に直結しこれをやったら業績が上がる、というような魔法の杖ではありません。しかし、今からこうした素地を作って行けるかどうかは、今後ますます厳しくなることが予想される社会経済状況に太刀打ちできるかにかかわってくるはずです。

 
 
お二方の講演の後は、ご参加の皆さんにグループになっていただき、自社の取組の紹介や感想などについてお話合いをいただきました。どのグループも初対面ながら大変盛り上がり、様々な意見交換を進めていただきました。


その後の質疑応答の内容、および当日配布資料は、会員専用ページにアップ致します。
下記リンク先より、会員ログインの後、ご確認ください。

2月22日 定例セミナー 質疑応答内容 ・ 配布資料はこちら


当日ご参加いただいた皆様からのアンケートの内容を以下に抜粋してご紹介させていただきます。

(佐々木先生へ)
・イノベーションの時代はメンタルタフネスが求められる、メンタルタフネスは組織変数であることが興味深かった
・(Cool,Warmの)二つのアプローチは非常に参考になるものがありました
・経営学を分解してメンタルヘルス対策に活用できそうな課題を提供していただきました。

(浅野さんへ)
・具体的活動のインパクトが大きいことに驚きました。自社でも身体的活動・歩数をフックにした健康の取組をスタート
しているので、心の健康にもつなげられるよう大切に進めて行きたいと思いました。
・現場のデータをたくさんご紹介いただけたこと
・運動機能と生産性の相関、関係性、取組の視点が素晴らしい。しっかり評価できている(PDCA)。


このほか、多くの良いご感想を伺うことができました。
当日ご参加いただいた皆様、ありがとうございました!



次回の定例セミナーは、4月19日(水)「メンタルヘルスと採用学」というテーマで開催致します。次回もグループでの話し合いや、講師へ直接伺う質疑応答の時間を設けます。ぜひご来場ください!

 4月定例セミナーのご案内はこちらから


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