職場における「Good Practice」として複数挙がったのは、『「ありがとう」を伝える活動』と、『組織のトップ主導の「目標を共有するためのワークショップ」』でした。
今回の実践課題は、「自組織内のGood Practiceを集めてくる、というものでした。人事部、健康管理室など、本研究会参加メンバーの部署でなくとも、会社の中で良い取り組みをしている職場があれば、その職場の事例をヒアリングしていただき、集めていただくという課題です。この課題の狙いの一つとして、職場内に隠れている、他の部署が知らない良い習慣や取組を探し出すという点があります。実際に、職場から集めて来ていただいた事例には、この研究会に参加している組織以外が主導する活動が多くありました。こうした活動の中で、効果の高いものについてはぜひ他部署にも共有していただき、横展開ができると良いですね。
具体的な活動の内容として、多かったのは「サンクス活動」、「ありがとう運動」など、相手に感謝を伝える機会を意識的に設ける活動と、組織目標を共有するためのワークショップや研修という場を作る活動でした。感謝や称賛(承認)を伝える活動についてはこれまでも、JR西日本様の「Good Jobカード」、同様にANAホールディングス様での「Good Job Card」(2016年7月の定例セミナーより)など、フォーラムでご紹介することも多く、多数の企業様でも取り入れられています。また、組織目標共有のためのワークショップや研修を実施している企業様も多くありますね。今回、こうしたワークショップの実施を挙げられた2組織に共通するのは、それがその組織のトップ(事業部長クラスの方)の発案で実施されていたことです。これ自体はとても良いことで、そうした場(組織開発の場と言えるでしょう)が必要だと強く感じるトップがいる組織は一体感が高まりそうです。一方で、そういうトップがいない組織には関係のない話、になってしまう可能性があります。
そこで、健康いきいき職場づくりの活動として、推進者となる人事部門や健康管理部門が、こうした良い事例(Good Practice)を発掘し、組織内にPRし、横展開を促していただければと思います。
健康いきいき職場づくりの活動は、一気に全社横断で取り組むことは困難です。なぜなら、職場それぞれに仕事内容が違ったり、働き方が違ったりすることで、一つの施策が全ての職場に合うわけではないからです。組織内に既にある良い取り組みや、新たな取り組みの成功事例から、自職場に合うものを選んで実践できるようになると、職場活性化がうまくいくのではないでしょうか。
ストレスチェックの有効活用「虎の巻」を教えていただきました
午後からは、島津先生より、「アセスメントの有効活用」について、講義と質疑応答をいただきました。アセスメントの説明として、多くの企業で採用されている「職業性ストレス簡易調査票」の中身についてのご説明と、「新職業性ストレス簡易調査票」の新しくなったポイントについて解説いただきました。皆さん、おそらく普通に利用されているものと思われますが、改めてきちんと講義を聴くというのは新鮮だったのではないでしょうか?
さらに、その後は島津先生の元に良く寄せられる「ストレスチェック活用に関する質問」を項目化した「虎の巻」を提供いただき、より具体的な活用方法、また活用に際しての質問にお答えいただきました。
良くある質問として、一例を挙げますと、
Q1.ストレスチェックへの関心の少ない部門長に感心を持ってもらうにはどうしたら良いか?
Q2.ストレスチェック後の対応として、ワークショップで決めたことを続けるにはどうしたら良いか?
Q3.ストレスチェック後の組織への対応において、高ストレスの職場だけを集めても良いか?
Q4.総合健康リスクが100前後とそれほど高くない場合でも、職場環境改善に取り組むべき基準などはあるか?
などなどです。
これらの答えとしては、
A1.マネジメントの指標とも関連させて示す など
A2.促進要因と阻害要因を明らかにする。デメリットよりもメリットを強調する。うまく行っている点を可視化し、フィードバックする など
A3.できれば高ストレス職場以外の職場も加わってもらうことで、高ストレス職場の後ろめたさが低減する。一方で、低ストレス職場に対しても、本当に問題がないのか、見せかけの低ストレスという点もあることに注意する など
A4.基準はない。判定図で考慮されていない要因が職場の健康に影響を与えていることがあるため注意が必要 など
他にも様々な質問に解説を含めてご説明をいただきました。
実際には、職場毎に様々な対応が生まれているのではないかと思います。その中でも、やはりうまく行った事例を積み重ねて行くより他ないのでしょう。ストレスチェックはこれから毎年実施をされるので、もしも最初の対応がうまくいかなくても、次年度挽回できるチャンスがあります。フォーラムでも、またAWP研究会でも、良い事例を集めて参りたいと思います。
従来の職場環境改善と、健康いきいき職場づくりワークショップの違いは、その目的にあります。どういう「ラベル」を貼るかはとても大事です。(東京大学大学院 特任助教 今村幸太郎氏)
午後後半は、「健康いきいき職場づくり」を推進する際に、どこかで実施をしていただきたい、「健康いきいき職場づくりワークショップ」について、東京大学大学院で特任助教をされている今村幸太郎先生より、講義と演習併せて教えていただきました。
今村先生からは、まず講義として、ファシリテーターのとしての基礎知識と、健康いきいき職場づくりワークショップ実施のポイントを解説いただきました。ワークショップを運営するファシリテーターに求められることは、「健康いきいき職場づくり」の理論的背景やこのワークショップの目的について、皆さんがこの場に立って参加者にわかるように伝えることができるということです、というお話でした。いよいよ実践者として立場を変えて、研究会メンバーの皆さんが社内の現場の方に向けてお話をしていただく段階が来ていることを実感します。
講義の後は、モデルケースを用いて、疑似的にその職場の社員になったつもりでワークショップに取り組んでいただきました。グループワークの場面では、ファシリテーターはあれこれ口出しすることはせず、話の流れを伺う程度の関わりになります。ただし、グループの話題が目的に外れていたり、個別具体的に人や組織を批判したりするような状況が生まれそうな場合は軌道修正する必要があります。
グループワークの様子
グループワークの様子
ファシリテーターのもう一つ重要な役割は、グループワークで出してもらったアイディアの発表の場面にあります。ここでは、管理職の方々にも入ってもらい(グループワークは管理職は入らずに実施します)、全体での発表を行います。この場で、グループから出たアイディアをなるべく褒め、良いフィードバックを基本にしながら、あいまいな点、実現性が伴わない点などに対しては掘り下げたり、目的を確認し直したりしながら進めて行きます。また、実際の場面で管理職から出るコメントに対しても適切なフォローが必要です。例えば、管理職の方が「そんなアイディアはくだらない」というようなことを発言した時点で、このワークショップは台無しになります。そのため、管理職には事前に、このワークショップの目的や、NGワードなどについて、しっかり伝えておく必要があります。
今回のワークショップ体験の後に、ご参加者のお一人から、こんな感想をいただきました。
「ワークショップと言っても、今自社でやっているものとは全然違いますね。今やっているのは、上から目標をドンと下されて、それに対してどう実現するか?を考えるものです。一方で、健康いきいき職場づくりワークショップは、まずどういう職場になりたいか?ということを自分たちで考えることから始めるのですね。」
おそらく、社内では組織目標達成のための会議や、ワークショップ、合宿など、いろいろな活動が行われていると思います。一方で、「どういう職場になりたいか?」、「自分たちの職場は今どうか?」ということを話し合う機会というのは、意外に少ないのではないでしょうか。
組織目標を実現する土台となる「職場」の在り方について、職場のメンバー参加型で考える場を設けることも必要だと考えます。
さて、次回はいよいよ前半戦最後の回。これからの参加メンバーの皆さんが、具体的に何をやっていくか「行動計画」を策定していただきます。どのような新しい取り組みが生まれるでしょうか、期待してお待ちしております。