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2021年11月09日

2021年10月27日開催 特別シンポジウム「コロナ禍においてより高まるデータ分析の重要性」サマリー・シンポジウム内Q&Aをアップしました!

2021年10月27日(水)、H&Pデータ活用研究会※と共同した特別シンポジウム「コロナ禍においてより高まるデータ分析の重要性」をオンラインで開催し、定員を大幅に上回る500名近くの方々にご参加いただきました。
本シンポジウムでは、健康経営を進める上での健康・人事データの活用のあり方に関して、学識の観点、企業での実践の観点からご講演をいただき、その後ディスカッションも交えて、より積極的な活用の方向性、経営の中での位置づけ、社員の巻き込み、個人情報保護との整合性等、多様な観点に関して討議しました。
※本編及びオンライン上でのQ&Aについてupしています。

※H&Pデータ活用研究会について
本研究会は企業の健康(Health)、人事、生産性(Productivity)に関連する各種データを用いた分析を実施し、健康施策の生産性への影響を定量的に示すことで産業界に貢献・還元することを目指し、早稲田大学大湾秀雄教授を代表研究者として発足いたしました。
(事務局:公益財団法人日本生産性本部・株式会社イーウェル)
早稲田大学教育・総合科学学術院 教授 黒田祥子氏
早稲田大学政治経済学術院 教授  大湾秀雄氏
「データを活用した健康経営の意義」


冒頭、黒田氏より現下における健康と生産性の関連を研究することの意義についてお話しいただきました。長寿社会や定年延長、健康経営などが進む中で、従業員が心身ともに健康に働くことが以前にもましてクローズアップされることにより、健康であることが生産性向上につながるかについてのエビデンスを明らかにする社会的な重要性が増しており、それにより近年同分野に関する研究が増えているといいます。
こういった問題意識に基づく研究の結果、例えば、コロナ禍を受けての在宅勤務に関する調査から浮かび上がる生産性低下要因には、ハード面では「整っていない自宅の仕事環境」、ソフト面では「(社内外の)コミュニケーションの不足」があり、どちらもインフラの未整備と捉えることが可能で、在宅勤務自体が生産性を低下させるのではなく、環境を整えていくことで生産性は回復しうるという仮説が成り立ちえます。
また、「企業が健康経営を実施すると利益は高まるのか?」という問いに関しては、分析の結果、「健康経営を経営理念に活動している企業ほど利益率が高い」「WLB施策の実施1年後に非上場企業で利益率がアップ」ということが明らかになっています。さらに、メンタルヘルスの関係性については、「休職者比率が高い企業ほど、予備軍も多い可能性」「労働者のメンタルヘルスが悪化すると数年後の売上高利益率が低くなる傾向」が見えてきています。さらに、ワーク・エンゲイジメントと生産性の関連では、「同一企業内でもワークエンゲイジメントは広く分布している」「従業員のワークエンゲイジメントが高いと職場の生産性は高くなる」ということが企業現場の分析結果から説明されます。
また、健康に関する投資を従業員と企業のいずれがするのが望ましいのかという問いに対しては、経済学の観点では、第一義的には健康増進に伴う利益を被る従業員が負担するのが望ましいとしつつ、規模の経済とデータ活用力があれば、企業がより効率的に投資を行えるため、企業が投資するということも考えられるが、その際には“wise spending”(企業は本来は労働者に賃金として還元すべきものを、本人に代わって投資している)という考え方をもつ必要があると黒田氏は説きます。ただ、企業側も「とりあえず、何でもいいからやれば健康経営」ではなく、職場で何が一番の問題かを特定化(勤怠データ、満足度調査、ストレスチェックななどのすでに導入しているデータを元に分析)して対応することが重要、として話を締めくくりました。
続いて大湾氏からは、健康施策の効果測定の必要性とその手順に関してお話しいただきました。効果測定の目的としては先の”wise spending”の実現、つまり最も費用対効果の高いプログラムを効果の高い対象に効果的な方法で行うことにあるといいます。そのための3つのレベルとして、①反応(参加者の満足度や取り組みの度合いをチェック、介入前後のアンケート(参加者のニーズに合っていたか、真剣に取り組めたか))、②習慣化(アプリなどで行動をモニター、一定期間後の行動変容をサーベイ:継続的に取り組めているか)、③結果(期待された健康面での効果の測定:対照群と比較、プレゼンティーイズム調査などで生産性への影響測定:費用対効果を計算)があると大湾氏は述べます。そして、そのための方法論として、ベストなものはランダム化比較試験(RCT=randomized controlled trial)だといいます。その事例として、IT企業における「単身赴任解消プロジェクト」を挙げられました。同社では、所属長との相談の上,生産性が落ちず,出張頻度が高くないことを条件に,テレワークによって単身赴任を代替することを許可し、その結果を問診・ストレスチェックデータに含まれる健康指標によって測ったところ、単身赴任の解消が健康面にプラスの影響を与えることが明らかになりました。
また、日清食品社による睡眠介入施策の効果検証例についても説明いただきました。この研究では、「スリープヘルス」(不眠の解消にとどまらず、健康やパフォーマンスにポジティブな影響を与える睡眠の在り方を考える)という観点から、非接触型センシングデバイスで得られた睡眠データをスマートフォンに送信、それによる睡眠データ管理と改善のためのお勧めプログラムの提示、改善に応じたレベルアップなどを行うことで、睡眠とパフォーマンスの関係性を分析しました。結果、睡眠改善のRCTでは、介入群に顕著な改善効果が見られ、一方で介入の効果がでやすい人と出にくい人の違いがあること、効果がでにくい層には、追加的なナッジなどを使う必要もあるかもしれない、「応募しなかった」人が実は一番やっかい(自身の健康やこれまでのライフスタイルを過信している)かもしれない、といった知見が得られました。
次の事例としては、大手製造業企業における禁煙外来治療プログラムの効果検証を挙げ、禁煙プログラムによる生産性の効果についての分析知見をご説明いただきました。それによると、禁煙プログラムの導入は、コミュニケーションやエンゲージメントなど短期的には改善が確認されなかったり、ヘビースモーカーには、負の影響があるアウトカムもある一方で、75%超が禁煙に成功し、健康習慣や労働時間の縮減、アブセンティーイズム・プレゼンティーイズムの改善がなされ、プログラム実施費用より高い経済的効果も確認されました。
最後に、健康経営に必要なものとして、経営陣の理解とサポート、透明性の高い取組み体制、健康データと人事データの両方にアクセスできる分析チームの立ち上げと育成、関連部署(人事部、健康保険組合、経営企画、広報など)との連携と信頼関係の構築、外部専門家との連携(学術機関、産業医、健康アプリ/健康サービスベンダー)が想定されうるとお話しいただきました。さらに、データ分析については、健康診断データやストレスチェックを用いて、社内で健康リスクが高いのはどのグループかリストアップ-職種別、性別、年代別、事業所別、就業環境別(例:出向者、単身赴任者)等の結果を確認し、働き方と健康指標の間の相関を見る、高リスク部署に配属されてから健康指標が悪化しているか、労働時間や運動・食事習慣の時系列変化と健康指標の時系列変化の間に相関があるか等の分析を基に対象やプログラム内容を決めていくのが望ましいと話されました。その上で、「健康投資は個人よりも企業が行う方が効率が良く、健康改善は生産性改善につながるというエビデンスが蓄積されつつある」「引き続き、採用、定着、賃金への影響を評価することで、健康経営投資の費用対効果や投資コスト回収経路についての知見を深めていきたい」「今後は、デジタル化の影響評価、若年層・高齢層・管理職層・性別に分けての検証なども必要」「重要なのは、”Wise Spending”であり、本来従業員に還元すべきお金を預かって投資しているという意識で、より効果の高い施策を最も必要な人に届ける努力を継続的にしていく必要がある」としてまとめられました。

3つの実践事例~積水化学工業・東洋インキSCホールディングス・日清食品ホールディングス~

①積水化学工業株式会社(人事部厚生・健康支援グループ健康推進室 室長 荒木郁乃氏)
同社は社員数約26000名が在籍し、グループとしての健康宣言や、「全ての従業員のwell-beingを達成し、多様な人材がいきいきと働ける職場づくりを目指」す健康経営基本方針を制定し、グループ130社の健康経営を健康経営推進室が中核となり進めています。同社は、「健康診断と生活習慣病対策(からだ)」「メンタルヘルス(こころ)」「安心して働ける職場と制度・グループ一体の「ホワイト500」への取り組み(そしき)」を通じ、働きがい・やりがい・生産性向上を目指すべく活動しているそうです。データの活用に関しては、健診、ストレスチェック、各種アンケート結果、アブセンティズム・プレゼンティズムなどのデータを常時管理し、それぞれにKPIを設定して管理しています。そして、データ活用を行う理由として、「健康経営を経営課題として位置づけている⇒PDCA、可視化の必要性」「なぜ、なんのための健康経営なのか?に応える一つの方策」「施策の企画立案の検討材料」があると荒木氏は述べます。具体的には、集計による傾向(ハイリスク者割合、項目別、事業場別、部署別等)、簡単な相関をみる(健康宣言の認知と健康度、残業時間と SC 結果の関連性等)、施策の効果測定(職場改善活動や認知行動療法の効果等)、自由記述欄の質的活用等があり、より精緻なものについては外部識者との連携を図るといいます。その上で、活用事例として、コミュニケーション研修実施後のアンケート結果や在宅勤務に関するアンケート結果を基にした分析とそれに基づく施策決定についてもご紹介いただきました。

②東洋インキSCホールディングス株式会社(グループ人事部人事企画グループ・トッパングループ健康保険組合 東洋インキ事務所・東洋インキ企業年金基金 住吉広太氏)
同社は社員数約8100名が在籍し、経営哲学である「人間尊重の経営」に基づき、「社員一人ひとりは会社の財産」「人的資源が最大限に活躍できる環境を整備していくことが重要」という考えのもと、「社員が健康に働くための職場環境整備」を推進すべく、健康経営を推進し、①健康増進、②健康リスク低減の2軸で、「社員の健康のための取り組み」を実施しているといいます。取り組みとしては、1~3次予防に各種施策を実施し、特に健保組合とのコラボで「社員食堂の健康化」を推進し、2020年に「第9回健康寿命をのばそう!アワード」において厚生労働省保健局長優良賞を受賞するなどの成果を挙げています。データ活用の分野では、4段階(①可視化・把握、②関係解明・因果把握、③予測、④処方推奨)のうち、②の段階まで来ていると住吉氏は言います。具体的には、①では健康診断集計、健康施策結果集計、休職状況の把握、有給消化率把握等を行い、②ではエンゲージメント、生産性に影響する要因把握、健康施策の効果検証を行っているそうです。同社では、社員が「生産性」と「エンゲージメント」を高い状態で保ち続け働くためには、どのような施策が必要かを、社員満足度調査や健康診断データ等を解析した結果、「睡眠」というキーワードに行き当たり、それに基づく「睡眠改善トライアル」を実施しました。内容としては、睡眠計測デバイスとスマートフォンアプリを使用した「睡眠習慣改善プログラム」と、中間オンラインセミナー、睡眠状況の個別フィードバック等の情報提供を行いました。これらの取り組みを通じ、施策立案と実行、効果検証フェーズにデータを活用することで、可視化できていない関係性の解明や、客観的な検証が可能となり、今後、他の施策へ水平展開していき、健康経営を更に推進する材料になったと住吉氏は述べます。と同時に、データ不足、スキル不足への対応など、データ活用を実践する上での道のりの険しさと、その乗り越え方(データ電子化やシステムでの一元管理、統計に親しむためにまずやってみる等)を示唆して発表を終えました。

③日清食品ホールディングス株式会社(健康経営推進室室長 三浦 康久氏)
同グループでは、創業精神である「美健賢食」-美しく健康な体は賢い食生活からに基づき、まずは社員が健康であることを重視しており、社員の心身の健康保持・増進を、重要な経営課題としてとらえているといいます。その上で、コスト抑制や人材確保といったメリットに加え、健康経営の本質を「おせっかいな予防」とし、従業員全員が、就業時の心身の調子に連動する仕事のパフォーマンスレベル(プレゼンティズム)を意識して行動している状態を目指す、と位置付けているそうです。そして、2021年度時点での健康経営の基軸を、①社員の健康向上、②コロナ禍でのストレス予防、③健康基軸DXの推進とし、これらを通じ、生産性(プレゼンティズム)200%を目指していると三浦氏は言います。①では、健診結果で判明した在宅勤務社員の「コロナ太り」や「工場勤務者の血圧の高さ」に着目し、そこへの施策を展開、②ではヒアリングや自律神経ストレス計での測定で一次スクリーニングをの結果、課題のあった約2割の社員へのフォローアップ施策実施(アンケートからは約半数の社員の行動変容に寄与し、メディア掲載は広告価値換算で3,170万円)、そして③ではデータ分析に基づく打ち手の企画を進めること、非効率な業務プロセスの見直すこと等を DX の切り口から進めたそうです。これらにより、健康経営のKPIの一つであるプレゼンティズムの軽減が果たされたと三浦氏はまとめました。

パネル討議「人事・健康データの活用を起点とした健康経営の推進へ」
話題提供:川上憲人氏(東京大学大学院医学系研究科教授・健康いきいき職場づくりフォーラム代表)

パネル討議に臨んで、川上氏から「健康いきいき職場づくり」の観点で見た、⼈事・健康データの活⽤を起点とした健康経営の推進について話題提供いただきました。健康いきいき職場づくりは、「楽しい系」、「充実系」、「評価系」があり、それがそれぞれ従業員の健康と幸福、離職や休職の減少、生産性の向上等に結び付けられるそうです。その上で、データ分析とポジティブ・メンタルヘルスとの関連では、計画立案段階で「ストレスチェックなどデータを活⽤して部署の分析をすること」、取り組み評価に関連し、「KPIを設定し、活動の改善に反映させること」がポイントになるといいます。さらに、取り組みの上で⼤事なこととして、「組織⽬標と「健康いきいき職場づくり」の関係を明確にしてデータをとり分析をする」ことがあると川上氏は述べます。また、コロナ禍での健康いきいき職場づくりのヒントについて、各種データから得られた知見としては「 職場での感染症対策の数が多いほど従業員の⼼理的ストレスが低く、仕事のパフォーマンスが⾼い」「在宅勤務ではチーム全体でのビデオ会議が週2‐3回以上あると⼼理的ストレスが低い」「上司、同僚との顔出しありビデオ通話が週2‐3回以上あるとワークエンゲイジメントが⾼い」「新型コロナウイルスワクチンは従業員の⼼理的ストレスを改善しない」「マインドフルネス等に関するウェブサイト「いまここケア」の閲覧がコロナ禍の従業員の⼼理的ストレスを改善」等の知見が得られています。その一方で、個人情報の取り扱いには留意すべきポイントがあることにも触れられました。最後に、①従業員のメンタルヘルス、特にポジティブメンタルヘルスの向上には、従業員の幸福および組織の⽣産性向上に寄与し、企業として健康いきいき職場づくりの取り組むことが重要、②健康いきいき職場づくりにおけるデータ活⽤は、1)計画⽴案、2)取り組みの評価(計画の改善を含む)の点で意義がある。取り組みの成果と組織⽬標とを関連づけて、KPIの設定、データの収集と分析を⾏うことが⼤事、③健康いきいき職場づくりの取り組みは、⼼理的ストレス、仕事のパフォーマンス、ポジティブメンタルヘルスのいずれの改善にも効果がある、④従業員の健康情報を法令やガイドラインに従い適切に取り扱う必要がある、と述べて話題提供をまとめられました。

続いて、大湾氏をコーディネーターとして、登壇者(黒田氏、荒木氏、住吉氏、三浦氏、川上氏)をパネリストとした討議が行われました。なお、本討議に際しては、参加者から多くの質問を受領し、それらについては講師陣から回答をいただきました(Q&Aの詳細は本ページ下部参照)

パネル討議
大湾)今回は参加者からの質問をオンライン上で募り、個別に回答いただいているが、そのうちからいくつか改めて聞いていきたい。まず、参加型職場環境改善やストレスチェック後の職場環境改善について詳しく知りたい。
川上)職場環境改善のうちの一つが参加型職場環境改善とご理解いただきたい。「参加型」というのは、労働者の意見を聞く場面を設けるのが特徴。
大湾)ワーク・エンゲイジメントと生産性、健康経営と生産性の相関・因果関係について。
黒田)今回は因果関係を知るために、時点をずらすことで特定化を図ろうとしてみた。ワーク・エンゲイジメントと生産性だと、例えばコロナ禍のように外的要因は排除できないが、半期ごとの業績予想を上回るかどうかで生産性をカウントしている。
大湾)睡眠改善PGMでは、夜勤があるような工場勤務を対象に入れているかどうか。
住吉)入れている。が、集合研修等は難しいので録画を活用するなどした。が、集合ができないのでモチベーション維持が課題に残り、違うアプローチが必要という印象がある。
大湾)コロナ禍の健康経営の取り組みについて。テレワークをできるかどうかのような働き方の多様性への考慮など含め、どういう苦労や工夫をしたか。
三浦)社内でのヒアリング結果などから、様々な課題が見えた。このときは、定量的なアンケートを待つことはできないと判断し、ヒアリングを行ったという経緯があり、「あるある、こんな声」というものを様々に集め、問題を集約し、各部署で打ち手を取った。その中の一つとして、「無自覚のストレス」を見える化する方法を考え、「自律神経ストレス計」での測定を導入し、各人の自律神経の状況からリスク分析し、疲労度に応じて書籍配布、睡眠の質向上の改善プログラム、押しかけオンライン面談などを実施し、半数で行動変容という効果が得られたので、今年の冬にも継続実施する予定。工場部門はテレワークではなく出社してエッセンシャルワーカーとしての食品の供給責任を担う。働き方の配慮というより、工場での衛生管理、品質管理のさらなる徹底を行っている。従業員の意識調査を年1回行っているが従業員のやりがいや社会への貢献のスコアが高くなった。これは社会からの期待を受け、モチベーション高く仕事していただいたものと受け止めている。
荒木)本社も在宅勤務でのアンケートの結果、生産性を下げる要素として在宅での環境が挙げられたので、そこへのテコ入れを重点的に行った。緊急事態宣言後にDXチームが活躍することで改善がなされた。健康面では飲酒量や運動量に問題があったので、健康アプリの導入による自律的な健康増進を促した。また、家庭内でのDVなどの情報もあったので、電話でのカウンセリングも在宅でできるように整えた。在宅できない組についても、日清食品同様に意気に感じたのか、生産性についてはプラスの効果があった。ケアとして、動画などでの情報発信を丁寧にするように対応した。
住吉)2社同様に、当社もテレワークできるかの二極化はあったが、コロナ前から働き方改革の一環で在宅勤務は試行しようとしていた。ただ、緊急的だったので施設面や健康面での問題はあった。健康管理の一環では、健康保険組合の医療職による保健指導では、オンラインの活用を進めた。予防については、職域接種の推進を行った。健康経営については、週数回の出社が社員では多く、食堂でのスマートミール提供や、個人単位でのウォーキングイベントは継続した。が、集団でのイベントはオンラインでは難しく、お互いに高めあうというお祭りのような空気感をどう出すかは今後の課題。
大湾)ワクチン接種が心理的ストレスを改善しないという話があったがどう解すればよいのか。
川上)調査時期の問題はあるが、ワクチン接種をしても社会的な経済状態が改善されるわけではなかったり、自分たちの同僚がかかる可能性があるなど、心配が払しょくされる可能性が低かったことが要因ではないか。
大湾)健康経営推進の体制についても聞いてみたい。経営陣の理解や社員の参加についての苦労や工夫をお聞きしたい。
三浦)体制面ではトップの理解が大事と感じている。当社ではもとから現CEOが関心が高かったことがあり、トップダウンで進めやすかった。さらに、「ナッジ」を活用して社員の行動の後押しを意識して行っている。例えばネーミングの工夫や、アンケート回答促進についてもきめ細やかな対応をとっている。
荒木)当社では「7つの健康習慣」などについてのアンケートを取っているが、イントラネットでの結果公表や、施策への反映を見える化することを意識している。一方で、どうしても書きたくない人はいいのでは、という大らかな気持ちでやっている部分もある。また、当社はベンチャー気質があり、割と気軽にやってみることができるところがあり、アンケートを徐々に必須化するなどして、回答への協力を促している。2017年に健康経営を始めたが、健康推進室を作るところまでは早かったがそこからが大変だった。全事業所に健康管理責任者・担当者等がいるのを活かし、対話を重ね、協力を募り、協力者を増やした。さらに、データ分析を通じ可視化し、ベンチマークしたことが効いたと思う。また、「時の運」として健康経営推進へのトップからの後押しが得られたのも大きかった。
住吉)体制については、健康経営を過去から行っており、人事部門にヘルスケア担当を置いており、健保組合とのハブになってコラボヘルスを進めている。各拠点内に健康経営の責任者・担当者を置いており、拠点ごとの活動をしている。健保から拠点ごとのレポートを受領し、それぞれの健康面の特徴をつかんでいるのも大きい。理解については、経営哲学の「人間尊重」というのが浸透しており、理解が得られていると思う。また、人事データの活用については、元から人事領域でのデータ活用、可視化、定量化などは行っており、周囲の納得性向上や、施策検討上の軸がぶれにくくなっているという効果があると思う。
大湾)そもそも会社トップが健康経営に意欲的ではない場合はどうすればよいか。
川上)各社に聞いてほしいところではあるが、あえて言えば同業他社情報を耳に入れる、トップの価値感に対応した形で施策を展開する、担当者自身が仲間を作って自らを高めつつチャンスを待つ、などがあるのではないか。
三浦)難しいが、正攻法で説明するのが大事だが、どういう形でゲリラ作戦を考えるかも大事。例えば社長が耳を傾ける人を落としてそこから攻めるという手もあるのでは。
荒木)焦らず少しずつ味方を見つけ、増やしていくことも大事。まずはみんなが喜ぶ施策から行い味方を増やすというのもあるのではないか。

大湾)健康経営の持続について聞きたい。取り組みの目的を明らかにし、KPIを設定・可視化・共有することは大事だと思うが、各社でどういうビジョンを持って健康経営を行っているか。
住吉)健康診断の有所見率はKPIとしてHPに公開して追いかけている。もう一歩踏み込んだ今後の方向性については、「一人一人が活躍する」ためには、個人に寄り添った対策が必要と考えており、生産性を下げる要素の排除をするため、個々人へのレコメンドをすることが健康経営に限らず周辺施策も含め最終的なゴールと考えている。
三浦)KPI可視化は大事だが、健康経営という概念だけでは経営がコミットを深めるのは難しいと感じている。その時に有用になるのはウェルビーイングで、こちらのほうが経営に届くのではないか。個人のウェルビーイングは健康関係、組織・チームのウェルビーイングやD&Iなども入る。社会的なウェルビーイングやSDGsなども含み、三層構造になり、それぞれが少しずつ関係しているのでは。楽天がそうであるように、これらをCWOが対応することで、企業理念と個々の健康がつながってくる。こういったことも将来構想に見据えてできれば。
荒木)主要6項目のKPIがあり、それ以外も含め20項目ほどの設定をしている。時間がかかる項目については、プロセス評価も取り入れ、あまり苦しくならないようにしている。当社もウェルビーイングを重視しているが、OECDのものを参照しつつ、主観的ウェルビーイングを取り入れている。幸福は一つではないこともあり、主観的な指標を重視している。
三浦)当社ではKPIの一つに事業と健康経営の連携と向上というものがあるが定量化は難しい。今年5月に「完全栄養食事業」を立ち上げたが、これは即席麺の技術を転用している。これを食べることで、パフォーマンス向上などを実証できると、ビジネスとの連動になる。まだ実行段階には至っていないが、実ビジネスとの連動を指標化していきたい。
川上)健康経営のウェルビーイング経営やそれを目的にした活動があるとしたとき、ウェルビーイングを高めることが会社にとってどういうメリットがあるととらえているのか。
三浦)どのウェルビーイングへの効果を求めているのかがまずは大事。社員のウェルビーイングであれば、社員の健康向上や企業ブランド向上、実ビジネスへの連動ということ、組織・チームだと、生産性向上や成果が上がるということ、これらを層別に図式化するということが大事ととらえている。社会向けだと、パーパスや理念との連動というところではないか。
大湾)良質な食生活確保への工夫などはどのように行っているか。
住吉)「スマートミール」を一定期間食べてのダイエットなどは、診療所からのターゲッティングでの働きかけや定期的なフォローをしている。
荒木)「7つの健康習慣」に関連し、健康アプリを活用している。食事情報を入力すると、AIがアドバイスしてくれるなどしており、一定の効果を上げているが、まだ課題は多い。
川上)3社の事例を聞くと、経営の中に活動を組み込み、KPIを設定されているのがやはり大事だと感じた。また、ウェルビーイングなど、健康経営の先を考えているのが印象に残った。
大湾)3点ほど印象に残った。①過去のデータの分析から実施施策を特定している、②自社の位置づけをベンチマークしているのが、社内での推進や説得に役立っているのではないか、③とは言いながらもアナログも大事で、足を使ったアプローチがあってこそデータ活用がうまくいく、という印象を持った。


最後に、事務局である当財団と株式会社イーウェルより健康経営推進支援のサービスをご紹介し、大盛況のうちに本セミナーは終了しました。
 

オンラインでのQ&Aについて
  • アブセンティーズム、プレゼンティーズムについては、健康経営度調査もあり、今後の浸透が見通せる状況と思いますが、どちらも最大限で評価して能力の100%までとなります。企業を本気にさせるには、100%以上の能力が発揮できている状況を評価する指標作りが必要と考えますが、いかがでしょうか。
    • 黒田先生:
      おっしゃるとおりで、プレゼンティイズムは100%が最大となっているものが一般的なのでそれ以上に働いている人も100%の天井に張り付いているという状態が起こりえます。ちなみにある企業さんで最大を120%にしたところ、120%と答える方も数パーセントですが存在したという調査結果をみたことがあります。どの程度100%を越えて働く人がいるかを特定化するには、もしプレゼンティイズムを測る機会があれば上限を少し大きくしてみるというのは一案かもしれません。ただ、その際気を付けるべきは、一度物差しを作ったらその尺度は固定したまま、経年的にみていくとより情報が得られるという点です。経年的に観察することで100%を越えて働き続けている人がずっと健康でいられるのか、無理をしすぎてダウンすることはないか、あるいは120%で働かなければならないくらい業務量が多いのではないか、同じ職場でプレゼンティイズムの従業員がいてカバーしているのではないか、といった仮説を検証することが可能となります。そうすることによって、従業員が100%以上の状態で働きつづけることが中長期的にみて望ましい働き方なのかを考えることにつながるのではないかと思います。
  • 健康経営導入前後で利益率は変化しているのでしょうか?
    • 黒田先生: 例えば「経営理念」のスコアの場合は、前年から今年にかけて「経年理念」のスコアが上がった企業は利益率が増えていると解釈します。「1年前」と書いているのは、一昨年から昨年にかけてスコアが増えると、今年の利益率が高くなるかどうかを示したものになります。ご参考までにですが、元論文はこちらにあります。
  • 健康経営を重視していることと、企業業績が相関関係があることを述べておられますが、他の要因(よくある研究としてダイバーシティ重視の企業が利益率が高い、なども聞きます)を排除できないのでどの程度の相関かは判断できないのではないでしょうか?また、相関関係があったとしても、因果関係があるとは即断できず、利益に余裕があるから健康にも配慮でき、経営が悪い企業はそういう余裕がない、ということを示すだけではないですか?
    • 黒田先生: おっしゃるとおり、企業業績にはたくさんのファクターがあり、健康経営をやっているだけではなく他の要因も多々ありますね。それらについては分析ではできるだけコントロール変数を用いることによって統制しています(例えば従業員の男女比率、年齢、設備投資額、R&A投資額など)。それ以外に企業固有の効果(これを固定効果と呼びます)を考慮することによって、データからは観察できないその企業の固有の効果(経営者の手腕、企業風土など時間を通じて変化がないものはこちらで捉えます)も考慮しています。また、時点を1年をずらすことによって因果関係を検証することをしています。さらに因果関係を特定化するためには、「操作変数」というものをみつける必要があるのですがそれは今後の課題となっています。 果関係は非常に重要な課題で、研究者のほうもより精緻な分析を重ねていく必要があると思っています。
  • ワーク・エンゲイジメントと売上げ高については、因果関係があるのでしょうか?
    • 黒田先生: 貴重なご質問をありがとうございます。先ほどのご質問とも関係しますが、厳密に因果関係を特定化することはおっしゃるとおり、とても重要ですね。今回データをご提供いただいた企業は、半期ごとに売上高のデータをとっています。そして今回の分析ではその半期の期初に従業員にワーク・エンゲイジメントをお聞きし、その後の半期の売上高がどうだったかを検証しているという方法で、時点をずらすことで因果推論を行っています。なお、小売業は従業員がいきいきしていたとしても、例えばコロナショックのような需要変動があって購入者が減ってしまうという不可抗力もあります。この点はこの企業は期末から期初にかけて、その時々の景気動向や為替レート、外国からの観光客などのデータをもとに次の半期の予測を行っており、この予測値のデータを分析では併用するかたちで需要変動をコントロールして、予測値を上回って売り上げがあれば生産性が高まった、と解釈しています。ご参考までに元論文はこちらからDLできます。
  • ワーク・エンゲイジメントがよいと売り上げもよいというのは、どちらが原因になっているのか分かり難いと感じます。WEをよくすれば売り上げも伸びるというように言えたらよいのですが、そうしたことを観測するにはどうしたらよいですか?
    •  黒田先生:
      上記のご質問と少し重なりますのでまずはそちらをご参照いただければと思います。なお、ワーク・エンゲイジメントが生産性に影響が及ぶのは業種や職種によると思います。今回は比較的売上高に直接的な影響がでやすい販売職の方々を対象としましたが、より短期に影響がでる職種もあれば、創造的な生産が必要な職種でトライアンドエラーが重要な職種などの場合はより中長期的な視点が必要かもしれません。御社の従業員の方々のお仕事の内容に応じて、どのようなタイムスパンでみるべきかを検討することからスタートするのがよろしいかと思います。
  • 間接部門の生産性を測る際の好事例を教えて頂きたいのと、プレゼンティズムなど自己申告的な数値を経営に提示する際の伝え方としておすすめな伝え方があれば教えて頂きたいです。
    • 黒田先生:
      ご質問は多くの企業の方からいただく共通の悩みです。成果が目に見えにくいお仕事でも、重要な業務を担っている方はたくさんいらっしゃると思います。そうした方の生産性も客観指標があればよりいいのですがそれは現実には難しいので、主観指標しか得られない業務や職種については主観的生産性(プレゼンティイズム、アブセンティイズム、ヒヤリハットの頻度など)を活用することがまず第一歩だと思います。今回大湾先生からご紹介があった睡眠施策のアウトプットもプレゼンティイズムを使いました。なお、経営者にはプレゼンティイズムがピンとこない方もいらっしゃるかもしれませんが、その場合に説得力をもつ材料として、プレゼンティイズムを1度限りで測るのではなくできれば経年的に定期的に測ることをお勧めします。経年的推移をみせることで、従業員のプレゼンティイズムが悪化傾向にあるのか、改善しているかを可視化すれば、経営層にも腑に落ちるエビデンスのひとつとなるのではないかと思います。また経年的な変化はご本人にアップダウンの推移をみてもらったり、同じ業務をしている同僚の平均値などと比較したりすることで新たな気づきが得られる可能性もあります。多少の体調不良や寝不足は仕方がないと考えてやり過ごしてしまう人もが多いと思うのですが、プレゼンティイズムが悪化していることがみてとれれば、「最近寝不足が続いているな」、「最近疲れているのだな」などと自覚したりする第一歩にもつながるのではないかと思います。
  • ランダム抽出は、介入群とコントロール群でそれぞれExcelのランダム関数などで抽出しても良いものでしょうか。
    • 大湾先生:
      参加者数が多ければ、Excelのランダム関数で振り分けても大丈夫だと思います。ただし、人数が限られている場合は、ランダムに振り分けても、かなりの確率で属性に有意差が出てきます。それを避けるためには、統計ソフトを使って層化抽出する必要が出てきます(性別、年齢別、職種別にランダム化を行うことが出来ます)。今回ご紹介した2つのフィールド実験も参加者が200名以下でしたので、層化抽出が必要でした。
  • 大湾先生の資料内で、一人当たり生産性を800万とした根拠はなんでしたでしょうか。
    •  大湾先生:
      上場企業の平均人件費が800万円に近いので、それが今回の参加者の平均生産性に近いという仮定で計算しました。参加者の(福利厚生も含めた)平均報酬が分かれば、より実態に近い仮定がおけると思います。ご参考
  • 睡眠の介入施策はアプリでの生活習慣に関する毎日のおすすめ事項が中心かと思いましたが、他にも何か組み合わせて実施されたのでしょうか。
    • 大湾先生:
      生活習慣や(照明などの)環境の改善が主です。それ以外の選択肢もいろいろ盛り込んだ方が効果が大きいのではないかと思います。先行研究でも、睡眠衛生法だけでなく、より積極的に運動その他のプログラムへの参加を含むほうが効果が高いという結果になっています。ご参考
  • 睡眠データを収集することは、かなりプライベートな部分に踏み込むこととなるとも考えられます。拒絶をする方も多いと考えられますが。
    • 大湾先生:
      データ提供を条件に希望者を対象に行っております。思ったほど参加希望者が最初集まらなかったのは、拒絶される方もいらっしゃったのだと思います。ご参考
  • 積水化学社では社員が23,000名もいると、回答数を集める際にご苦労されると思いますが、どのようにして回答率をあげていらっしゃいますか?
    • 積水化学 荒木様:
      アンケート形式のものは回答率が70%ぐらいが平均的となっていまして、なかなか100%とはなりません。「必須」と銘打っているものは90%を超えています。工夫としましては、アンケート形式のeラーニングやアンケートの後には必ず集計結果をイントラに掲載しています。また「アンケート結果から〇〇という施策を決定しました」など、従業員の方の声を生かすようにして、それも公開しています。アンケートに回答することが健康経営施策にダイレクトにつながると感じていただくことで、回答へのモチベーションになると良いなと考えて実施しています。
  • 健康保険組合は健康管理に関してどのようなかかわり方をされていますか。
    • 積水化学 荒木様:
      セキスイ健康保険組合とは、月に1回ミーティングを実施しています。当社グループでは健診は健保が運営しています。また、当社は禁煙はなかなか実施しにくい面がありますので、禁煙プログラムは健保主体で実施するなどの役割分担をしています。また、過去に、健保が持っているレセプトデータと健診データなどを業者に分析してもらったことがあります。そこから健保と共同の施策などを検討したりしています。
  • 睡眠介入施策ですが、どういった施策があるのでしょうか?早く寝る、寝室の環境改善(暗くする)、運動するなどありきたりなことしか思いつきません。個々の睡眠状況、データに応じた加入施策として何ができるのかという納得性がないと、なかなか睡眠介入施策の導入は難しいかなと思っていますが、いかがでしょうか。
    • 大湾先生:
      ニューロスペース社の提供するメニューには、照明、運動、お酒を控える、朝晩の飲み物など、一般的な睡眠衛生法で推奨されている行動が含まれています。ただし、日清食品様はネットワーキングも行っていましたので、それ以外の取組みを始めた方もいらっしゃったのではないかと思います。ご参考
  • 人事担当者の統計スキルはどのように向上させていますか?人事担当者の多くは、数学に弱かったりしますので…
    • 東洋インキ 住吉様:
      私自身も統計分析に関する知見はない状況でした。書籍やオンラインEラーニング等で少しずつ知識を蓄積している状況です。後は、社内の別部門で詳しい方等との交流等も実施しています(当社ですと技術部門や生産技術部門等)。
  • 休職状況の把握について、休職者を把握していますか?欠勤者はどのように扱っていますか?弊社では、積み立て有給休暇+当年度の有給休暇で3か月近く休めてしまうので、何をもって休んでいる人としてデータをとるか悩んでいます。
    • 休職者は休職に入る際、復職する際のフローが決まっており、それによって把握しております。(弊社でも、ご記載頂いた内容と同じく、積み立て休暇+有給消化後に実際の休職に入ります)
  • みなさんに質問です。業界特性上夜間や深夜時間帯の勤務があったり、海外で時差があったりする部署や職種がある場合、統計分析と効果検証はどのように行うのがBetterですか?
    • 積水化学 荒木様:
      当社グループの場合は、なるべく条件を一致させるようにしたり、統計分析のときには特性のある職種にはフラグを立てて、その特性を加味した分析をする、群を分けて群間の比較も行うといったことを実施しています。 おそらくもっと良い手法があると思いますが、当社グループの場合は以上のような工夫をしております。
  • 睡眠改善について、おそらく工場勤務の方(3交代等)もいると思いますが、そうした方への配慮はされていますか?弊社は睡眠の話をすると、工場(夜勤が中心の業務)からの視線が厳しくなり(どうにもならない、規則正しい生活など無理)、健康管理部門から心が離れていきます。
    • 東洋インキ 住吉様:
      今回の施策では、2・3交代の方も混ぜて実施しています。そのために、中間研修等シフト都合で集まれないことを想定して、録画版の動画を配信するなどの工夫を致しました。
  • RCT試験など実施の際には倫理委員会による承認は必要でしょうか?
    • 大湾先生:
      必要です。研究者が主体的に実施する場合は、必ず所属大学で承認を取ります。企業様が主体的に行い、研究者が助言を行い、事後的にデータを頂く場合は、データの2次利用と見なせるケースもありますので、その場合は、承認の必要の有無を研究倫理委員会にお伺いを立てます。
  • コロナ太り→運動、血圧→禁煙、とのことですが、施策を選択した理由を教えてください。食品メーカーですので、従業員の皆様は、食生活の改善は不要なのでしょうか?
    • 日清食品 三浦様:
      仰る通り、食生活改善も実施が必要と考えます。こちらは社内的にも満を持して今年5月に弊社HPにて発信させて頂きました「完全栄養食事業」の食事を社員に提供する方向で検討を進めております。この実証などが整いましたら社外発信させて頂く予定です。ご確認宜しくお願いします。
  • 注意点で挙げていただいた個人情報の取り扱いについて、具体的にはどういった内容でしょうか?また、健康推進室として、健康保険組合との検診結果やストレスチェックなどのデータのやり取りはどのように行なっていますでしょうか?
    • 積水化学 荒木様:
      健康情報は要配慮個人情報という特別に配慮が必要な個人情報となりますので、外部にデータを出すときには必ず秘密保持契約書を交わしてます。また、各アンケートなどには「回答は個人が特定されない形で大学等と分析する可能性があります。分析対象から外してほしい場合は申し出て下さい」といった文言をリード文に追加しています。データを出すときには個人を特定できないようにしています。健保とは業務委託契約を交わすことによって、データをお互いもつことを可能にしています。また、健診結果に関しては当社グループは健保が健診を実施していますので、厚労省のガイドラインに沿って健康情報取り扱い要綱を作成し、その内容を労働組合と協議し同意を得て、健保から会社が健診結果を共有してもらえるよう整備しています。
  • 資料内ご説明にあった、人材育成への効果について具体的に教えていただけますと幸いです。
    • 東洋インキ 住吉様:
      人材育成については、異動の効果検証や選抜研修の効果検証、若手社員のモチベーションへの影響等の分析を継続実施しております。
  • 健康経営に関して、ISOなど国際認証の可能性や動きはあるのでしょうか?
    • 事務局:
      現在、経産省が旗を振る形での動きが生まれつつあります。よろしければこちらをご参照ください。
  • ワーク・エンゲイジメントや売上げなどには、様々な因子が関与する可能性が考えられますが、交絡因子の調整法、コントロール法についてご教示ください。すべてブラインド化した前向きなRCTが実現できなかったり、RCTができたとしてもn数のパワーが小さかったりなどの問題もあると思います。
    • 黒田先生:
      貴重なご質問をありがとうございます。ちなみにワーク・エンゲイジメントと売上高の研究はRCTではなく、すべての従業員を対象とした検証となります(回答率は97%)。コントロールしている変数は、売り場の男女比率、平均年齢、正規非正規比率、転勤ありなし比率、従業員数などを用いています。また、小売業は従業員がいきいきしていたとしても、例えばコロナショックのような需要変動があって購入者が減ってしまうという不可抗力もあります。この点はこの企業は期末から期初にかけて、その時々の景気動向や為替レート、外国からの観光客などのデータをもとに次の半期の予測を行っており、この予測値のデータを分析では併用するかたちで需要変動をコントロールして、予測値を上回って売り上げがあれば生産性が高まった、と解釈しています。ご参考までに元論文はこちらからDLできます。
  • ウェアラブル端末の費用は企業側で負担されたのでしょうか?
    • 東洋インキ 住吉様:
      端末と睡眠可視化レポート等のパッケージにつきましては、当社が費用負担しております。希望制の社内研修のような位置づけで実施しています。
  • 「参加型職場環境改善」や「ストレスチェック後の職場環境改善」について具体的な違い、やり方等がわかる資料などありましたら、ご教示いただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。
  • 公的なベンチマークとして挙げてくださったのはなんでしたでしょうか?ぜひ参考にしたいと思います。
    • 積水化学 荒木様:
      メンタルヘルス長欠率:「労働安全衛生調査(実態調査)」を参考にしています。少々古いですがこちらです。主観的Well-Being指標、主観的健康状態はこちらを参考にしています。
  • 社員の健康情報、データの取り扱いについてですが、昨今JMDCなど健康情報を収集し分析サービスを戻しつつ、利活用し製薬企業等に販売するビジネスモデルが活況かと思います。このような企業にデータ提供する際の注意事項等あれば教えていただけますでしょうか?匿名化していれば個人情報ではないので個人情報保護法の対象外という意見もあるかと思います。
  • そもそも会社のトップが健康施策に意欲的でない場合(肥満、喫煙、運動習慣なしなど)はどうすればよいのでしょうか?健康経営優良法人を取得していて施策をすすめたくても意見も出ず、施策を計画実行しにくい状況です。
    • 川上先生:
      各社にたずねていただくのがよいと思いますが、1. 同業他社の進捗状況をそれとなく耳にいれるようにする、2. 会社のトップが何に価値を置いて企業経営しているのかを理解し、これに合わせて施策を提案する、3. 仲間をつくり、勉強会などをして、自らを高めつつ、チャンスを待つ、でしょうか。
  • 参加型職場環境改善に関し、弊社ではストレスチェックの結果より、部門ごとにMIRRORを実施し、職場環境改善案を検討しております。その際、参加に対しネガティブな意見(管理者が考えるべきなのでは)と考える社員が多い現状がございます。そのような社員に対しポジティブに改善に参加いただくためにはどのような工夫が必要なのか、ご意見承りたく存じます。
    • 川上先生:
      御社の組織文化や風土が、参加型職場環境改善を円滑に進められる準備条件を満たしているかを確認する必要があります。参加型職場環境改善の準備条件としては、職場の相互理解や上司のリーダーシップなどがあげられます。もし準備条件がまだととのっていないなら、管理監督者が従業員の意見を聞くという一方向の情報収集や、(従業員全員でなく)従業員代表と管理監督者とが中心になって職場環境改善を進め、うまくいった例をつくることで従業員が参加したいと思う素地をつくることからはじめてはどうかと思います。参加型職場環境改善の準備条件についてはこちらの論文の表6などが参考になるかもしれません。
  • みなさんに質問です。良質な睡眠を得るためには、良質な食生活と運動も必要かと思います。特に食事に関し、若手の単身者はコンビニ飯が中心となり食生活に乱れが生じやすいです。どのようにケアすればよいですか?
    • 川上先生:
      保健師と人事でチームを作り、若手の単身者の人に(オンラインで)集まってもらって、食生活を乱さない方法についてアイデアを出してもらい、それを社内で実験してみて、改善してゆくのはどうでしょう。
  • ストレスチェック集団分析の全社発信は、どのレベルのものを発信していますか?全社の結果、事業所ごとの結果、部門ごとの結果、など。設立時の軋轢や警戒心等、共感するところがあり勇気づけられました(^^)
    • 積水化学 荒木様:
      集団分析の全社発信は全社の結果とカンパニー別の結果までの大枠としています。その他に健康推進室から、積水化学単体は事業場ごと、グループ会社は会社単位の集団分析結果を個別に送付しています。そこから先の単位につきましては、各事業場、各社の健康管理責任者・担当者の方に集団分析読み方WSを開催して分析方法を勉強していただき、各人で実施していただいています。健康経営推進は、メジャーな事業活動ではないため、いろいろ困難と感じることもありますね。それでも健康は生産性向上の基盤になる大切な部分と思いますので、お互いにがんばっていきましょう。
  • 皆さまに質問です。健康経営における従業員個人毎へのパーソナルアプローチについてお考えと、打ち手を教えてください。太った方もいれば痩せた方もいる、や、個々の興味やニーズも異なるところにも難しさがあると思います。
    • 川上先生:
      身体面での古典的なアプローチなら、セグメント化と集中した介入でしょうか。リスクの高い方(例えば太った方)を抽出して、この方々に体重コントロール指導を集中して行うという手法が一般的です。ポジティブメンタルヘルスについては、職場に異なる雇用形態や生活状況や性格の人が集まっていて、この多様性を認めた上で助け合い、コミュニケーションをとれる環境をつくることがポイントかと思われます。

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